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新潟地方裁判所 昭和43年(行ウ)6号 判決

新潟県長岡市表町三丁目九〇一番地の二

原告

株式会社機庄商店

右代表者代表取締役

青柳幸四郎

右訴訟代理人弁護士

岩淵信一

新潟県長岡市南町一丁目

被告

長岡税務署長

富山昌男

右指定代理人

斎藤健

伊東真

柿原増夫

村田良郎

大塚弘

長谷川義郎

渡辺一郎

右当事者間の法人税更正処分取消等請求事件につき、当裁判所はつぎのとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、求める裁判

一、原告

(一)  被告が原告の昭和四〇年八月一日から昭和四一年六月三〇日までの事業年度の所得金額および法人税に対し。昭和四二年六月三〇日付でなした更正処分のうち所得金額金一、〇八〇万八、三〇八円法人税額金三〇二万八、四〇〇円をこえる部分および重加算税決定処分は、これを取消す。

(二)  訴訟費用は、被告の負担とする。

二、被告

主文同旨。

第二、請求原因

一、原告は、被告に対し昭和四〇年八月一日から昭和四一年六月三〇日までの事業年度の所得金額および法人税について確定申告をなしたところ、被告はこれに対し、昭和四二年六月三〇日所得金額を金一、二五三万三、一八八円、法人税額金三六四万五、七〇〇円および重加算税金二一万四、五〇〇円とそれぞれ更正決定処分(以下、本件処分という。)をなした。

そこで、原告は本件処分の一部を不服として関東信越国税局長に対し審査請求をしたが、同局長は昭和四三年三月六日本件処分の一部を取消し、原告に対し所得金額金一、二四六万九、三〇八円、法人税額金三六二万二、八〇〇円、重加算税金二〇万七、九〇〇円とする旨の裁決をなした。

原告は、昭和四三年三月一二日右裁決書謄本を受取つた。

その経過は別紙一のとおりである。

二、本件処分の理由は、

被告は、原告がなした確定申告中、原告の訴外田辺正治に対する金八五万一、〇〇〇円、同田辺武雄に対する金八一万円、同小林進に対する金七万一、〇〇〇円の各退職金合計金一七三万二、〇〇〇円の支払を否認して益金に加算し、かつ別紙二の〈1〉〈2〉の金額を加算減算して算定した、

というにある。

三、しかしながら、本件処分はつぎのとおり違法である。(なお、本件処分のうち小林進に対する退職金七万一、〇〇〇円を否認した計算は、審査裁決により取消されている。また別紙二の〈1〉〈2〉の金額の加算減算については不服がない。)すなわち、

(1)  原告の取締役田辺武雄、田辺正治が退職するにあたり、昭和四〇年一一月二七日に行なわれた臨時株主総会において、田辺武雄に対する退職金金八一万円の支払決議、昭和四一年四月三〇日に行なわれた臨時株主総会において、田辺正治に対する退職金金一九〇万円の支払決議が各なされた。

(2)  そこで、原告は右決議にもとづき昭和四一年五月二日右両名に対し、退職金として右各金額(但し、田辺武雄については金二万六、四〇〇円、田辺正治については金一四万〇、五〇〇円が各源泉税として差引く。)を支払つた。

(3)  したがつて、原告が前記確定申告に際し、右両名に対する退職金の支出を損金として処理したのは、正当であり、右退職金の支出を否認した(但し、田辺正治については内金八五万一、〇〇〇円のみ)本件処分は違法である。

四、よつて、原告は被告に対し、被告がなした本件処分のうち、所得金額金一、〇八〇万八、三〇八円、法人税額金三〇二万八、四〇〇円を超える部分の取消を求める。

第三、請求原因に対する答弁

一、第一項中、裁決書到達の日は不知、その余は認める。

二、第二項は認める。

三、第三項中、冒頭の項の括弧内の記載、(1)の田辺武雄、田辺正治が退職したことおよび原告が田辺正治に対し、後記のように退職金一〇四万九、〇〇〇円を支払つたことは認めるが、その余は全部争う。

四、第四項は争う。

第四、抗弁

一、課税処分の根拠

原告主張の退職金支払のうち、田辺武雄に対する金八一万円、田辺正治に対する金八五万一、〇〇〇円は、架空のものであり、退職金としては現実に支払いがなされなかつたものである。すなわち、

(1)  田辺武雄は退職に際し、原告から退職金の支払を受けたことはない。

もつとも、昭和四一年五月四日に原告の経理部長近藤三郎および取締役田辺正治が、田辺武雄に対し、現金一五九万三、六〇〇円を支払つたことがある。しかし、これは原告の代表取締役青柳幸四郎個人が昭和四〇年一二月ころ田辺武雄から同人所有の原告会社株式(額面金一、〇〇〇円)八一〇株を一株当り金二、〇〇〇円、計一六二万円で買取つたことによる代金の一部として支払つたものであり、原告が田辺武雄への退職金を支払つたものではない。

(2)  田辺正治に対して支払われた退職金は金一〇四万九、〇〇〇円であつて、原告主張額の金一九〇万円でない。

右退職金は、昭和四一年五月二日原告の代表取締役青柳幸四郎から支払われたものであるが、その際田辺正治の受領したのは金二七五万一、〇〇〇円であつた。

しかし、このうち金一七〇万二、〇〇〇円は右青柳幸四郎個人が、田辺正治より同人所有の原告会社株式八五一株を一株当り金二、〇〇〇円計金一七〇万二、〇〇〇円で買取つたことによる代金として支払つたものであつて、原告が田辺正治に対し退職金として支払つたのは、金一〇四万九、〇〇〇円に止まるのである。

(3)  原告主張の退職金支払の株主総会決議は全く存在せず、田辺正治に対する右退職金も決議にもとづかないで支払われたものである。

(4)  また、仮に原告主張のように臨時株主総会の決議が存在するとしても、右決議は、原告会社の内部的意思決定にすぎず、代表機関がかゝる意思決定を外部に表示したときに、はじめて右会社の意思表示がなされたことになるというべきところ、原告は田辺武雄に対し、退職金を支給する旨の意思表示をなした事実はなく、また原告会社代表者は田辺正治に対し、金一〇四万九、〇〇〇円の退職金を支給すると述べ、同人はこれを承諾したものである。したがつて、原告は、田辺武雄になんら退職金支給債務を負つたことはなく、また、田辺正治に対し負担した退職金支給債務は金一〇四万九、〇〇〇円のみであつた。

(5)  なお、昭和四〇年一二月当時(前記(1)の売買契約当時)の原告会社の株式価格は金二、〇〇〇円を上回るものであつた。すなわち、株式価格の算定方法としては、相続税財産評価に関する基本通達(昭和三九年直資第五六号国税庁長官通達)の彩つている算定方法(類似業種比準方式と純資産方式の併用)が、もつとも合理的で、正確なものである。そして、これによれば、右株価は、一株当り金二、五六八円となる。したがつて、前記青柳幸四郎が原告株式を田辺武雄から一株当り金一、〇〇〇円で買収することはありえず、原告の主張は失当である。

二、重加算税賦課処分の根拠

前記一のとおり、原告は退職金計一六六万一、〇〇〇円を仮装計上したから、被告は国税通則法第六八条により重加算税金二〇万七、九〇〇円の賦課決定をなした。

第五、抗弁に対する答弁

一、一項(1)の、田辺武雄が被告主張の日に現金合計一五九万三、六〇〇円を原告経理部長近藤三郎および取締役田辺正治からうけとつたことおよび同(2)の田辺正治が被告主張の日に原告代表取締役青柳幸四郎から現金合計二七五万一、〇〇〇円をうけとつたことは認めるが、その余の事実は全部争う。

二、被告主張の株式取得代金は、青柳幸四郎がその資金を原告から別途借り受け、一株当り金一、〇〇〇円として、田辺武雄に対しては金八一万円、田辺正治に対しては金八五万一、〇〇〇円をそれぞれ原告主張の退職金とは別に支払つたものである。

第六、証拠関係

一、原告

(一)  甲第一号証の一、二、第二、三号証の各一ないし三、第四、五号証の各一、二、を提出。

(二)  証人近藤三郎の証言、原告代表者本人尋問の結果援用。

(三)  乙第七号証の成立は不知、その余の乙各号証の成立は認める。

二、被告

(一)  乙第一ないし第一〇号証、第一一号証の一、二、第一二ないし第一六号証を提出。

(二)  証人鈴木茂、同猪浦芳夫の証言援用。

(三)  甲第三号証の一ないし三第四号証の一、第五号証の一、二の成立は認める。甲第四号証の二のうち、鉛筆書きの部分の成立は不知、その余の成立は認める。その余の甲各号証の成立は不知。

理由

一、請求原因第一、第二項の事実は裁決書到達の日を除いて当事者間に争いがなく、成立に争いない甲第五号証の一、二によれば、原告は昭和四三年三月一二日右裁決書謄本を受取つたことが認められる。

また、本件処分のうち、被告のなした別紙二の金額の加算減算が適法であること、原告の取締役田辺武雄、同田辺正治が原告を退職したこと、原告が田辺正治に対し、退職金一〇四万九、〇〇〇円(内金であるか全額であるかはともかくとして。)を支払つたことは当事者間に争いがない。

二、そこで、以下原告主張のように、原告が田辺武雄に対し金八一万円、田辺正治に対し右金一〇四万九、〇〇〇円のほかに金八五万一、〇〇〇円以上合計金一九〇万円の各退職金を支払つたかどうかについて検討する。

(一)  昭和四一年五月四日、原告が支払つたのか、あるいは青柳幸四郎個人が支払つたかはともかくとして、原告の経理部長近藤三郎および取締役田辺正治の手を経て、田辺武雄に対し現金一五九万三、六〇〇円が支払われたこと、同じく同月二日、原告代表取締役青柳幸四郎の手を経て、田辺正治に対し現金二七五万一、〇〇〇円が支払われたこと、および右青柳幸四郎が田辺武雄から原告の株式(一株当りの額面金額一、〇〇〇円)八一〇株、田辺正治から同株式八五一株をそれぞれ買受けたことは当事者間に争いがない。

しかして、田辺武雄、田辺正治の両名が退職の前後ごろ原告の関係者から受取つた金員が、右以外にないことは当事者双方の主張自体より明らかであるから、前記原告主張の金額が退職金であるか否かは、帰するところ、右の田辺武雄に対する金一五九万三、六〇〇円、田辺正治に対する金二七五万一、〇〇〇円から被告が退職金として自認する金一〇四万九、〇〇〇円を控除した金一七〇万二、〇〇〇円が右株式の売買代金であるか否かによることになる。

(二)  そして、成立に争いない乙第八、九号証、第一三、一四号証、証人鈴木茂、同近藤三郎(後記信用しない部分を除く。)の証言、および原告代表者本人尋問の結果によれば、田辺武雄は、昭和二四年ころから原告会社の前身である青柳幸四郎商店に勤め、原告会社設立後もこれに協力し、昭和三五年から取締役(営業部長)の地位にあつたが、昭和三九年ころから原告会社代表取締役青柳幸四郎の経営方針に従つてゆけないとの理由から、兄田辺正治と一緒に原告会社から独立して同種の営業をする会社を設立すべく計画し、そのころから原告会社に無断でその従業員らを引きぬき右競業会社を設立したこと、ところが、右事実が原告会社に発覚したので、田辺武雄は昭和四一年一一月ころ原告会社を退職することとし、その際原告代表者青柳幸四郎に対し、前記原告の株式八一〇株(額面総額金八一万円)を時価が額面の三倍位に評価されているとの理由により、額面の二倍で買取るよう要求したこと。また、田辺正治は、原告会社設立以来の協力者で昭和三六年九月から取締役に就任し、傍系会社に出向し営業部長兼企画室長の地位にあつたが、前記のとおり弟の田辺武雄とともに原告会社から独立し、別会社を設立するために、昭和四一年四月三〇日ころ退職することとし、その際田辺武雄と同様に原告会社代表者青柳幸四郎に対し、前記原告の株式八五一株(額面総額金八五万一、〇〇〇円)を前記同様の条件で買取ることを要求したこと。これに対し右青柳幸四郎は、右のような不祥事件が得意先に知れることをおそれて両名が円満退職という形で事態をおさめることを望み、また、原告会社が従来から従業員持株制度をとつていることなどから両名の持株の回収を望んでいたこと。以上の事実を認めることができき、前掲近藤証言、同尋問の結果のうち右認定に反する部分は信用できず、そのほかこれを覆えすにたりる証拠はない。

また、成立に争いない乙第一ないし六号証、証人猪浦芳夫の証言および弁論の全趣旨によれば、田辺武雄は、昭和四一年六月一日付をもつて、同人が同年五月四日前記青柳幸四郎に対し、原告の株式八一〇株(自己名義のもの五四〇株、他人名義のもの二七〇株)を額面の二倍である合計金一六二万円で譲渡した旨の有価証券取引書(有価証券取引税法第一二条第三項)を作成し、また、田辺正治は、同年五月二日付をもつて、同人が同日青柳幸四郎に対し原告の株式八五一株(自己名義のもの五四一株、他人名義のもの三一〇株)を同じく額面の二倍である合計金一七〇万二、〇〇〇円で譲渡した旨の有価証券取引書を作成したことが認められ、これを左右するにたりる証拠はない。

しかして、以上の事実に、前掲乙第八、九号証、成立に争いない乙第一〇号証、第一三号証、第一五号証、前掲鈴木証言によつて真正に成立したものと認められる乙第七号証を併せ考えれば、田辺武雄の受領した前記金一五九万三、六〇〇円は、青柳幸四郎からの株式八一〇株の売買代金一六二万円の内金、田辺正治の受領した前記金一七〇万二、〇〇〇円は、青柳幸四郎からの株式八五一株の売買代金と推認するほかなく、したがつて、田辺武雄に対する退職金の支払い、田辺正治に対する金一〇四万九、〇〇〇円を超える退職金の支払は、いずれも帳簿上の記載はともかく、現実にはなかつたものというべきである。

(三)  もつとも、甲第一号証の一、二、には、原告主張のとおり株主総会において田辺武雄に対する金八一万円の退職金支払決議、田辺正治に対する金一九〇万円の退職金支払決議がなされた旨の記載があり、甲第二号証の一、二には、田辺武雄、田辺正治が右退職金を受領した旨の記載があるが、右のうち甲第一号証の二は前掲乙第九号証に照らし、また、甲第二号証の二は前掲乙第八号証に照らして考えると、いずれもその成立に疑いがあるばかりでなく、甲第一号証の一、二の記載は、前掲近藤証言、同尋問の結果に照らし信用できず、甲第二号証の一、二も、前記認定事実および前掲乙第一ないし六号証、乙第八、九号証に照らして考えると、原告が真実は株式売買代金であるのを会計処理上、その一部または全部を退職金として扱つた証左とみるほかはなく、前記認定を妨げるものではない。

さらに、前掲近藤証言、同尋問の結果中には、原告の前記主張にそう供述部があるが、いずれも退職金を算定した合理的な根拠を明らかにしておらず、ただ原告主張の金員は退職金として支出したと述べるだけで、その金額が武雄については株式代金と同額、正治については原告の正治に対する仮払金と同額である点からみても、また、前記各証拠に照らしてもにわかに措信できない。

また、小林進に対する退職金七万一、〇〇〇円を否認した計算が、審査裁決により取消されて確定したことは当事者間に争いがないが、前掲尋問の結果によれば、小林進は一般のセールスマンで、退職金については原告会社の就業規則に定められた金額によつたことが認められるから、右事実もまた前記認定を妨げるものではない。

さらに、田辺正治の有価証券取引書である前掲乙第四ないし第六号証の記載をみると、いずれも株式譲渡価額が倍額に訂正されていることが明らかであり、この事実からみるかぎり、田辺正治については額面取引ではなかつたかの疑いも一応もたれなくはないが、右金額の訂正が後日なされたとの証拠がない以上、訂正後の記載を信用するほかはない。

そのほか、前認定を覆えすにたりる証拠はない。

三、 してみれば、被告の原告に対する本件処分は適法であるから、原告の本訴請求は理由がなく失当として棄却すべきなので、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宮崎啓一 裁判官 佐藤歳二 裁判官 戸田初雄)

(別紙一)

〈省略〉

(別紙二)

〈1〉 所得金額の計算上加算したもの

〈省略〉

〈2〉 所得金額の計算上減算したもの

〈省略〉

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